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漫録

2006年05月06日

平成18年05月06日
 (間。)そこで君の云つた誤植だが、鸚鵡石には入らつしやいもお出なさいも、あ行の「い」になつてゐるのを印刷所では別に気にもしないで植字をしてゐて、ふいと一箇所位わ行の「ゐ」を植ゑたのだ。かういふのは誤植だ。それとは違つて、僕が原稿の時から直して遣つてゐるものを、故意に其通にしないで、お負に朱書で反対の意志を表白して来るのは誤植といふものではない。変植とでもいふのだらう。僕は忙しい体で活板屋と筆戦をしてはゐられないから、変植に対して何の手段を取ることも出来ないのだ。一体こんな事を遣るのは古今耒曾有の遣方なのだ。僕はさういふ遣方をする印刷所には印刷をさせたくないのだ。
と、鷗外は『鸚鵡石(序に代ふる對話)』に書いた。他に『假名遣意見』をも書いてゐる。吾は、青空文庫のやうに「現代仮名遣」で鷗外の作品群を入力する事は、鷗外に對する侮辱であると考へる。

別記

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